特定非営利活動法人あいち・みえプロジェクトネットワークは、愛知県・三重県の活性化に貢献していきます。

親族を頼って来日，料理とは無縁の毎日

伊拉特さんのご出身はどちらでしょうか。 　中華人民共和国内モンゴル自治区のシリンゴル盟シリンホト市というところです。内モンゴルの中では中東部に位置していて，大草原が広がっている地帯です。ただ，けっして田舎という場所ではなく愛知県で例えるなら名古屋市に近いくらいの大都市でもあります。
シリンホト市はどのようなところでしょうか？ 　シリンホト市の気候は，日本と同様に四季はありますが，冬はマイナス４０度にもなるため，防寒具なしだと耳が凍ってしまうほどです。一方，夏は３０度ほどで暑すぎることもなく，空気も水もきれいで言うことなしです。日本人にとっても，快適で過ごしやすいと感じると思います。あと，大規模な花畑や大きな仏教寺院群などが観光名所となっていますので，コロナが落ち着いたら，是非遊びに行ってみてください。
来日したのはいつ頃でしょうか。 　２００２年１０月に留学生として来日しました。実は既に私の親族が留学生として神戸にいまして，その方に誘われたことがきっかけで来日することになりました。そのため，来日してから６年間くらいは神戸で生活していました。また，今の妻と知り合ったのも神戸にいた時でした。

　その後，彼女（今の妻）が就職で名古屋へ行くことになり，さらには私自身も仕事の関係で名古屋へ行くようになり，結婚後は名古屋が生活の拠点になりました。ただ，結婚後も料理とは無関係な仕事をしていたので，本当に料理とは無縁な日々を送っていました。
日本での生活について，つらい経験や困ったことはありますか。 　日本語には苦労させられました。来日当初から日本語の学校に通っていましたが，それでも専門的で難しい言葉を覚えるのが大変でした。また，日本語のレベルが高くないと仕事もやらせてもらえなかったりと，嫌な思いをしたこともあります。

妻の熱意に押されて ～モンゴルレストラン郷の誕生～

「モンゴルレストラン郷」出店までの道のりを教えてください。 　モンゴルレストラン郷がオープンしたのは２０１９年４月です。出店するかどうかの話は，その一年ほど前までさかのぼります。当時，「名古屋で有名な、とあるモンゴルレストランのオーナーが、帰国することになったため別のオーナーを探している」という話がありました。そこで，以前からモンゴルレストランの経営に興味を持っていた内モンゴル民族出身の私の妻が新オーナーに名乗りを上げたのですが，なかなかうまくいきませんでした。私は諦めた方がよいと思っていたのですが，妻の決意は固く，その後も不動産探しなどモンゴルレストランの経営に向けて積極的に行動していました。そして，ついに名古屋市港区で絶好の場所を見つけました。それが，今のモンゴルレストラン郷です。
料理とは無縁だった中で，レストランの仕事に携わるのは大変ではなかったですか。 　開店当初は，何人かスタッフがいて，専属のシェフも在籍していました。そのため，私はお手伝い程度のことしかしていませんでした。そうした中で，シェフや他のスタッフが帰国しなければならない時期が訪れ，私が切り盛りしていくしかなくなりました。それからは私も腹をくくり，故郷で料理店を営む母にモンゴル料理を教わったり，シェフが帰国する前にアドバイスをもらったりして，一生懸命モンゴル料理の勉強をしました。
「モンゴルレストラン郷」の紹介をお願いします。 　モンゴルの伝統料理といえば，やはりホルホグです。ホルホグの最大の特徴は，高温の石を使って，羊の骨肉とたっぷりの野菜を長時間蒸し焼きして作るという点です。あとは，ボーズという蒸し餃子もモンゴルの伝統料理です。ボーズは私の母の得意料理でもあり，私も母の味を思い出しながら作っています。モンゴル料理には免疫力を高める効果がありますので，当店にお越しいただいて，モンゴル料理を食べてコロナに負けない体を作りましょう。さらに，当店には他店ではなかなか味わえないモンゴル料理もあります。それはモンゴルヨーグルトです。酸味が強く，それでいてミルクの味が後からやってくる独特なヨーグルトです。美肌効果や熱中症・夏バテ予防，便秘解消にも効果があるといわれるモンゴルヨーグルトです。当店に来たら，是非食べてほしいと思っています。「味見だけでも」という方には，モンゴルヨーグルトを一杯無料サービスいたしますので，気軽に注文してください。
店名の由来について教えてください。 　故郷のことをいつでも思い出せる場所，日本にいても故郷は同じということを忘れないでほしい，と考えて「郷」と名付けました。
コロナの影響はいかがでしょうか。 　お客さんがかなり減りました。当店は大人数の団体客がメインのお店なので，コロナ対策でそうした団体客を受け入れることができなくなったのは痛いです。少人数のお客さんについても，なかなか日本人は少ないですね。やはり「モンゴル料理」のお店に１人や２人では入るのは，日本人にとってはハードルが高いのでしょう。それ以外にも，コロナ対策として様々な消毒用品や消毒機器を設置しました。さらに，パーテーションや換気機器も設置して，国や自治体が推奨する感染対策をできる範囲で実施したので，その分の費用も掛かりました。
今後の目標や夢について，可能な範囲でお聞かせください。 　まずはコロナをどうにか乗り越えて，モンゴルレストラン郷を再び軌道に乗せたいと考えています。また，妻の方が最近設立した「株式会社郷」が進めている人材紹介事業についても力を入れていきたいと思います。人材紹介事業を通じて，同郷の皆さんを少しでも助けられたら、と思っています。モンゴル人の特定技能の方をスタッフとして雇いたいという会社がありましたら，株式会社・郷まで是非ご連絡ください。
そのほかに取り組まれている事業はありますか。 　モンゴルレストラン郷は，モンゴル料理をより多くの人に知ってもらうため，主に愛知県内で開催されるフードイベントなどにキッチンカーで積極的に出店しています。最近では，２０２０年１１月に名古屋市中区の西別院境内で開催されたアジアンナイトマーケットに出店しました。このほか，故郷で貧しい生活を送っている子供たちに向けて，可愛らしい服を送り届けるという支援活動も進めていますが，コロナ禍のため一時中止しています。コロナが収束したら再開したいと思っています。

多文化共生について，こう思う

日本は外国人が暮らしやすいところだと思いますか。 　日本は頑張ればそれに応じた報酬があるので，自分が欲しいものを努力次第で手にすることができます。例えば車や家などの高価なものが挙げられます。故郷において，これら高価な品物を買うことは，一般国民にとって夢のまた夢といったものでした。
多文化共生社会をさらに実現していくために，もっとこうした方が良いというご意見がありましたら是非お聞かせ下さい。 　留学生に対する支援機関や制度は充実してきていると思いますが，社会人に対するそうした機関や制度はまだまだ不十分だと感じるところはあります。制度そのものをもっと分かりやすくしたり，気軽に相談できる場所や支援機関をもっと多く，身近に設置してほしいと思います。私自身もコロナ禍でさまざまな申請をする際に，書類の不備などを何回も指摘され，大変な目に遭いました。困っている外国人はたくさんいます。そのことにもっと気付いてあげられる社会を目指すことで，より多文化共生になると思います。

新型コロナウイルスの影響　そして故郷のコロナの現状

伊拉特さんの身の回りでどのような影響がありましたか。 　自分の周りでもコロナ禍で仕事を減らされ収入が激減し，生活に困っている同郷の方がたくさんいます。先日も空港のレストランで働いていた方が失職し，ビザの問題もあってもはや帰国するしかない状況に陥っているという話を聞きました。

　家庭に関しては，どこも同じだと思いますが、やはり子供に自粛生活をさせなければならないことが辛いです。家に引きこもってばかりいるので，運動不足も心配です。
コロナ関連の給付金や協力金は受け取れていますか。 　感染防止対策をしっかりと講じて営業し，さらには自治体からの時短要請やアルコールの提供自粛にも従ってきましたので，それに応じた協力金は受け取っています。ただ先ほども述べましたが，申請には大変苦労しました。ちなみに知り合いの外国人も，同じような状況で，どうにかして受け取れているようです。
故郷の感染状況などはいかがですか。 　約３カ月のロックダウンが早期に実施されたことで，感染を最小限に食い止めることができたようです。内モンゴル民族の死者数もかなり少ないそうです。羊肉を食べているおかげで，免疫力が向上しているのではないかと個人的に思っています。また、ワクチン接種も進んでいますが，接種会場はかなり密になっているみたいです。

最後に

同郷の内モンゴル民族の皆さんに，元気の出る応援メッセージをお願いします。 　コロナ禍で大変な世の中ですが，感染対策を徹底した上で羊肉をしっかりと食べて，あともう少し頑張っていきましょう。日本の皆さんも，モンゴルレストラン郷へ是非いらしてください。美味しい羊肉料理を食べて，コロナに打ち勝ちましょう。