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とうかいTABUNKA通信

ミゲル・ワマンさん

 ペルー南部の町プキオ出身のミゲル・ワマンさんは、大須商店街(名古屋市中区)で南米雑貨専門店「PUKIO」を経営しています。また、ミゲルさんは、大須商店街で毎年開催されている「ラテンアメリカフェスティバル」の実行委員長を務め,南米の魅力や文化を日本人に伝える活動をしています。「人との出会いや地域とのつながりを大切にしてきた。その結果、多くの人に支えられて、私は今日を迎えています」と笑顔で話すミゲルさんに、「PUKIO」出店までの道のりや「ラテンアメリカフェスティバル」の魅力、そして、「多文化共生社会」に対する思いについて、お話を聞いてみました。


あこがれの日本、突きつけられた現実

来日の経緯について、当時を振り返って教えて下さい。 子供の頃、日本の芸術や文化などを紹介する雑誌を見て、「いつか絶対に日本に行く」という夢を抱きました。その夢を叶えるために、様々な仕事をしてお金を貯め、日本への行き方を自分なりに調べたり、自動車関連のエンジニアの資格も取得しました。途中、当初考えていた日本への渡航手段がなくなったり、家族からの猛反対という障害があって何度も挫折しそうになりましたが、やはり、「日本に行きたい」という思いがなくなることはありませんでした。そして30歳の時、当時仕事で滞在していたアルゼンチンで知り合った人の協力を得ながら、日本へ行く準備を整えて、ついにその時を迎えることができました。

初来日を果たしたのは、2001年1月30日午前5時、降り立った場所は東京・成田空港でした。子供の頃からの夢が叶ったこの瞬間は、今でも忘れられません。
そこからなぜ、名古屋へ来ることになったのですか。 日本の都市といえば、雑誌で紹介されていた東京や京都くらいしか知りませんでした。ただ、折角日本に来たのだから、どうせなら新幹線に乗って東京以外の知らない場所も見てみたいと思い、東京駅へ向かいました。日本語がほとんど分からず、もちろん知り合いもいなかった私は、東京駅に到着後、行き先や料金などがよく分からないまま、ポケットに入っていた1万円を出して、切符を購入しました。その切符には、「東京➡名古屋」と書いてありました。そう、名古屋へ行くことになったのは本当に偶然だったのです。

名古屋に到着した後は、色々な場所を観光して回りました。そして、その時に知り合った方の紹介で、東海地方で働くようになりました。
見ず知らずの地で働くのは大変ではなかったですか。 大変でした。特に、愛知県内のとある弁当屋で働いた時が一番大変でした。その弁当屋では、凍えるような寒さの倉庫の中で、冷たい水を使って野菜を洗ったり、重たい荷物を何度も運んだりと、地獄のような環境で仕事をしました。ただ、日本語が話せなかった当時の自分は、「これをやるしかない、贅沢を言ってはいけない」と思い、歯を食いしばって頑張ることにしました。ところが、その弁当屋では、そんな私に対して、さらなる仕打ちが待っていました。それは、「外国人に対する差別やいじめ」です。そう、その弁当屋では、日本人従業員による外国人への差別やいじめが横行していたのです。私を含め、その弁当屋で働いていた外国人は、日本語があまりできなかったので、そうしたひどい扱い方をされても、何も反発できず、ただひたすら耐える日々を送っていました。当時を振り返って、「仕事の大変さはどうにかなるが、差別やいじめほど辛いものはない」と今でも思っています。

そんなある日、我慢の限界に達した私が、片言の日本語を使って初めて怒った瞬間がありました。そして、日本語が話せないと思っていた日本人従業員は、その日を境に、いじめや嫌がらせを控えるようになったのです。それからは、職場環境だけでなく私自身の心境にも変化が生じてきました。

「日本語がもっと上手く話せるようになれば・・・」と。

そうした思いが強くなってきた私は、日本語の勉強に励むようになりました。そして、日本語がだいぶ話せるようになった頃、私は、弁当屋の社長に直訴し、これまでの差別やいじめのことを指摘した上で、仕事を辞める旨を申し出ました。

南米雑貨店「PUKIO」出店に向けて動き出す

弁当屋勤務時代のつらい経験を糧にして、次のステップを踏み出したのですね。
そこから、南米雑貨店「PUKIO」を出店するまでの道のりについて、お聞かせ下さい。
弁当屋を辞めてからは、来日前に働いていた自動車整備工場での経験を活かして、豊田市内の自動車工場で働くことにしました。しかし、毎日同じ作業を繰り返すだけの仕事に対し、次第に嫌気が差してきて、「もっと何か別のことがしたい。今の自分にはもっとできることがあるのではないか」と自問自答するようになりました。辿り着いた答えが、「自分の会社を持つ」というものでした。そして、自動車工場勤務時代に知り合った南米雑貨店店主の日本人に相談したところ、その日本人から「あなた(ミゲル)も南米雑貨店をやってみないか」と誘われ、引き受けることにしました。
そしていよいよ、大須商店街に出店する時がやってきたのですか。 いえ、最初は、伏見通り周辺(名古屋市中区)に出店しました。本当は、この大須商店街に店を構えたかったのですが、様々な弊害があってそれは叶いませんでした。
弊害とはどういったものでしょうか。 色々ありましたが、一番辛かったのは私が外国人であり、そして見た目が黒人っぽいということを理由に、大家さんに相手にしてもらえなかったことです。ただ,外国人に対する差別は、弁当屋勤務時代に嫌というほど味わってきたので、そのようなことがあっても諦めませんでした。そして、何度も何度も不動産屋へ行き、ようやく伏見通り近くの場所を借りることができたのです。しかし、「大須商店街に出店したい」という思いを捨てきれなかったので、いつかは移転しようと考えていました。
大須商店街へ出店するために具体的に何をされましたか。 地域の皆さんに信頼される外国人にならなければいけないと考えました。日本社会のルールをしっかりと守って、外国人に対する悪いイメージを払拭するようにしました。そして、商店街の人々に自分のことや南米のことをもっと知ってもらう必要があると思い、イベントも開催しました。そのようにして、大須商店街の人々の生活に馴染んでいった結果、皆さんの信頼を得ることができ、さらには親切な不動産屋さんの協力もあって、念願であった大須商店街にこの「PUKIO」を出店することができたのです。この不動産屋さんとは今でも親しくお付き合いさせて頂いており、本当に感謝しています。

「PUKIO」の店長として
「ラテンアメリカフェスティバル」の実行委員長として

「PUKIO」は,どのようなお店でしょうか。 まず、南米雑貨店ですので、南米から輸入したり自作した楽器や人形などの雑貨を売っています。また、「PUKIO」では音楽教室も開催しており、南米好きな日本人が集う交流の場にもなっています。最近では、もっぱら音楽教室の方がメインになっています。「PUKIO」は、日本人との触れ合いを大切にし、いつもアットホームな雰囲気のお店です。店長である私は、「PUKIO」を訪れるお客さんをファミリーだと考えています。
ミゲルさんは、大須商店街で毎年開催されている「ラテンアメリカフェスティバル」の実行委員長も務めていますが、このフェスティバルの開催経緯について教えて下さい。 来日してからずっと感じていたことがありました。それは、「日本人は働き過ぎではないか。他に楽しいことはないのか。どうにかして一緒に楽しむことはできないだろうか」というものです。そして、大須商店街に店を構えてからは、「いつか、この商店街で日本人と楽しめるイベントを開催したい」と思うようになりました。そうした思いを抱きながら、商店街で仲良くなった日本人の方々と少しずつ準備し、2010年に、第1回目となる「ラテンアメリカフェスティバル」をナディアパーク(名古屋市中区所在)で開催することができました。
第1回目のラテンアメリカフェスティバルを大須商店街で開催しなかったのはなぜですか。 最初はどれだけ人が集まるか分からなかった上に、いきなり商店街で大規模に開催すると、地域の人から驚かれて、敬遠されるのではないかという不安がありました。まずは、別の場所で小規模に開催してみて、日本人・名古屋市民にラテンアメリカフェスティバルのことを知ってもらい、ある程度の実績を作ってから大須商店街で開催した方が良いと考えました。ちなみに2012年からは、念願だった大須商店街でラテンアメリカフェスティバルを開催しています。

このラテンアメリカフェスティバルは、回を重ねるごとにどんどん盛り上がってきています。今では、愛知県、名古屋市、大須商店街連盟、名古屋国際センター、JICA中部、名古屋商工会議所、愛知県国際交流協会、中日新聞社から後援を頂き、実行委員会も南米好きな日本人で賑やかになりました。
実行委員会のメンバーは、ミゲルさん以外は全員日本人なのですか。 今はそうです。以前は南米出身の外国人もいましたが、日本人が大半を占める実行委員会の方針とは相容れず、脱退していきました。やはり、「全員で協力・団結して準備し,計画的にフェスティバルを開催する」というやり方が、「その場の勢いでどうにかなる」という楽天的で無計画なその外国人には合わなかったようです。私も外国人なので後者の考えは分からなくもないですが、長く日本で暮らし、多くのことを学んだので、今では、日本人の協調性やきめ細かさというものをとても尊敬しており、自分もそうありたいと日々思っています。
ラテンアメリカフェスティバルの魅力をお聞かせ下さい。 これは「PUKIO」と共通していることでもありますが、魅力は、「南米の音楽や文化を知り、楽しむことができ、初めての人でも南米が好きになってしまう。そして、南米好きな人同士で知り合いになり、仲間を作ることができる」というところです。
2020年のラテンアメリカフェスティバルに向けた抱負をお願いします。 今年(2020年)で第11回目となるラテンアメリカフェスティバルは、現時点で、例年と同じく4月に大須商店街において開催する予定でしたが、コロナ禍で中止となりました。今後も、何か新しい企画をどんどん実施して盛り上げていきたいと思っています。南米好きの方、南米に興味があるけれどもこうしたイベントは初めてという方、南米のことは全く知らないという方など色んな方がいると思われますが、どのような方でも楽しめるはずなので、是非ともラテンアメリカフェスティバルにお越しください。

あと、名古屋市では、毎年、名古屋フォルクローレ音楽祭という南米ミュージックフェスティバルも開催されています。私は、このイベントの立ち上げや企画にも携わっています。今年で6回目となる名古屋フォルクローレ音楽祭は、例年通り、11月に久屋大通庭園フラリエ(名古屋市中区)にて開催される予定なので、こちらにも是非足を運んで下さい。

多文化共生社会に対する思い

愛知県内で長年暮らしてきたミゲルさんから見て、愛知県は外国人が暮らしやすい場所だと思いますか。 とても暮らしやすい場所であると感じています。東京や大阪のように大都会というわけでもなく、街の色んなところに古き良き時代の風情や人情みたいなものを感じます。人との繋がりを大切にし、困ったことがあればお互いに助け合うという心意気の皆さんのおかげで、今の私があると思っています。あとこれは愛知県以外でもそうかもしれませんが、外国人向けのお店がどんどん増えていることや、日本語だけでなく、外国語で様々なことを説明している点も外国人にとってはプラスだと思います。来日した当時、銀行口座を開設するための書類に自分の名前を書くだけでも苦労したことは、今ではいい思い出です。
日本では、2019年4月に出入国管理法が改正され、これまでよりも多くの外国人を受け入れることが可能になりました。
これについて、日本で様々な経験をされてこられたミゲルさんはどう思いますか。
外国人を受け入れることは良いことだと思いますが、そのことにまだ慣れていない日本は、もう少し慎重に外国人を入国させた方がよいと思います。犯罪を企むような不良外国人を入国させないのは当然ですが、そうでなくても、例えば、日本人の性格や日本の文化を大切にする気がない外国人については条件付きの入国にしたり、日本社会のルールを知らない外国人については入国前に教育を受けさせるといった対応が必要かと思います。外国人の受け入れを拡大するというのであれば、「できるだけ良質な外国人を受け入れて、大切な日本の文化を汚されないようにする」ということも念頭に置くべきだと思います。
外国人労働者が増えていることについてはどう思われますか。 外国人労働者を増やし過ぎると、いずれは日本人労働者の仕事がなくなって自分たちの首を絞める可能性があるという点を日本は自覚すべきだと思います。私が以前いたアルゼンチンが、実際にそのような状況に陥っていました。また、日本人ですら過酷だと感じている働き過ぎの労働環境を改善することも、外国人労働者と共に働いていく上で大切なことだと思います。
日本で暮らす同郷の外国人にメッセージをお願いします。 折角、日本に住んでいるのだから、日本の文化を理解して尊重し、日本社会に慣れ親しむことを心掛けて下さい。そして、日本での生活をもっと楽しんで下さい。私は、人との出会いや地域とのつながりを大切にしてきました。その結果、多くの人に支えられて、私は今日を迎えることができています。

最後に

今後の展望についてお聞かせ下さい。 今の大須商店街は、若い人を中心に食べ歩きや飲み歩きが流行しています。そのため、そうしたニーズに合わせて、「PUKIO」も、食べたり飲んだりしながら皆さんと交流できるお店にしたいと思っています。もちろん、今の音楽教室は継続したいとも思っています。また、南米の文化や音楽、ダンスなどをもっと多くの日本人に知ってもらいたいので、そのための大きな施設を、どこか別の場所に作りたいという夢も持っています。要するに、今の「PUKIO」と「ラテンアメリカフェスティバル」の魅力を併せ持った場所です。これからも多くの人と繋がり、知り合った人々と喜びを分かち合いたいと思っています。

~~関連リンク集~~


南米雑貨専門店「PUKIO」
https://pukio.jp

店主ミゲル・ワマンさんのFacebook
https://m.facebook.com/miguelwaman.j

ラテンアメリカフェスティバル
https://pukio.jp/latinoamericafestival.htm

名古屋フォルクローレ音楽祭
https://pukio.jp/nagoyafolklorefestival.htm